代表ごあいさつ

COLOMAGA Project  発起人・浅井由剛よりメッセージ

人間の特性 “創造力” を使える人になろう。

 東日本大震災の起こってから1年後の2012年、デザインで何か地域に役に立つことは出来ないだろうかと、静岡県伊豆市で地域活性化の活動を始めたばかりのNPOサプライズ代表の飯倉清太さんに相談したことがそもそもの始まりでした。しばらく後に、伊豆市の修善寺駅に近い小学校が5年生とデザインの授業をやってみたいと興味を示してくれました。まずは、地域を全国に発信する時に必要な地域のロゴを作ってみる授業を始め、地域のマップを作る授業などをやらせてもらう事が出来ました。今から考えるとデザインを授業に取り入れた事例としても先駆けていたのだと思います。そして、その授業の帰りに小学校の廊下に掲示されていた、子どもたちが調べた地域学習の発表資料に目が止まりました。一生懸命調べた地域のことをキレイにまとめている記事を学校以外の人が見れないのはもったいない、これを本にして地域の人に見せたらどうだろう。地域の人だけではなくて、全国の人に見てもらえたらどうだろうか。と思いついたことをすぐに学校の先生に話をして、そこから第1号目のローカルマガジンづくりが始まりました。

基本的なルールを2つ作りました。1
つめは、取材は調べるだけではダメ。必ず人(当事者)に会って、話を聞いてくること。2つめは、本のレイアウトは必ずプロのデザイナーが行うこと。こうして、プロのクリエイターと子どもたちのコラボレーションでローカルマガジンを作り始めました。これが思わぬ結果を導くこととなり、10年続く活動になりました。その思わぬ結果とは、誰もが今までの自分の生まれ育った地域に関心と愛着を持ち始めたことでした。大人たちが知っていることを子どもたちは知らないのです。スマートフォンが普及して、子どもたちが情報に触れる機会が以前よりも多くなったとは言え、地域の情報は子どもたちは知りませんでした。

 知る機会を作ることはシビックプライド醸成の本当の一歩目です。ローカルマガジンを子どもたちとクリエイターがコラボレーションして作るメリットは創造力の育成にも役立ちます。情報誌(ローカルマガジン)は、クリエイティブの要素が詰まったひとつの作品です。情報誌を作るプロセスは、調査・取材・整理・創造・伝達・共鳴です。これは、ざまざまなものを創り出す際に必要なスキームと同じものばかりです。人間の持つあらゆる知能を使って創り出される情報誌の中でも、地域に特化したローカルガジンは、創造的な知能を使いながら、各人が関わっている地域にフォーカスすることで、所属している地域の空間的な広がりを認知することが出来る様になり、さらに調査・取材を通して垂直的な思考(その土地の持つ歴史や時間の流れを認知すること)から地域を眺めると、住民としてのシビックプライドも高まるという側面もあります。整備された大きな幹線道路と、大きなマ建築物が建ち並ぶ光景は、都心や地方に関わらず、画一的な日本の郊外の光景になってしまいました。そこには、わかりやすく郷愁を感じる景色はほとんどありません。子どもたちは自宅と学校と塾・習い事の3カ所を行き来するだけで、その行動範囲の中で町の記憶が作られていきます。その景色には愛着は持てないかも知れませんが、人とのつながり、友人たちとの思い出、そしてその町が持つ、想像された記憶としての都市のイメージが愛着となりシビックプライドにつながります。

 例えば、文京区では、海から離れた文京区の東京大学が建つ高台にある貝塚から土器が発見され、その土器から弥生時代という名前になった事実や、この高台は海のすぐ近くだったという驚きは、現在見えている都市の光景ではなく、想像することで現れる、イマジネーションの都市のイメージを形成が、その町への愛情として醸成されていくのです。直感的に良い風景だと思えなくても、ローカルマガジンづくりに関わることで、抽象度の高い光景が頭の中に構築されていくことになり、実際の光景よりも、その頭脳の中のイメージがシビックプライドを作っていると言えるのです。

 そして最後に、自分が関わった作品が社会に公開されることで、共鳴を引き起こし、様々な影響を周囲に与えていく体験は、創造を成就させるアウトプットの大切を参加した子どもたちだけでなく、運営するスタッフ、周囲で支援する人々にも記憶に残ることでしょう。COLOMAGA Projectは子どもたちの創造性の発達に非常に効果のある活動です。その活動を通じ、子どもたちとそれをサポートする大人たちがいつの間にかシビックプライドを強く持つ様になります。この活動を体験した子どもたちが、将来、自分の生まれ育った地域をよりよくしようと、創造力をフル稼働させて、いろいろな活動や事業に取り組んでくれたら、日本もまだまだ良い国として世界で存在感を持って、多くの人間のために役に立つことができる国になっていると思います。そんな夢を見て、この活動をやっています。

代表プロフィール


COLOMAGA Project 発起人 浅井由剛(あさい ゆうごう)
株式会社カラーコード代表取締役/クリエイターチーム カラフル 代表/京都芸術大学 准教授/静岡県地域づくりアドバイザー/アート思考研究会代表幹事

静岡県沼津市生まれ。大学卒業後、好奇心と冒険心から、30万円でどれだけ世界中を旅することができるかと、26歳の時に旅に出ます。結果として、3年間、20ヶ国以上の地域で様々な経験をしながら旅人生活を送ることができました。旅生活の中で、イスラエルで就労していたリゾート施設のスタッフたちから差別的な扱いを受けながら、たまたま壁に落書きした絵が話題になり、形勢が逆転。同僚から一目置かれる立場になると言うアートの効能を実感する経験あります。これが後々の活動に影響します。帰国後、30歳手前から輸入食品・雑貨のフランチャイズ展開をするベンチャー企業で働き始め、34歳で独立してフリーランスとなり、40歳で株式会社カラーコードを起業。現在は、大企業から、行政、中小企業、個人事業主まで様々なクライアントのミッションやビジョンと言われる抽象的な概念を言語化・ビジュアル化して、ブランディングすることが事業の中心です。起業と同時に、デザインの力を地域活性化に活かすかをために、一般社会人向けのデザイン講座や子ども向けのデザインワークショップを始めました。デザイン(主にグラフィックデザイン)について一般向けにわかりやすく解説をする講座から、デザイン思考やアート思考を経営やまちづくりに活かす講座などをセミナー事業者・行政・地域活性化団体などと企画・開催しています。2014年東北芸術工科大学創造性開発研究センター「生きる力を育む芸術・デザイン思考による創造性開発拠点の形成」に研究員として参加。それをきっかけに、アート思考とデザイン思考の研究と活用方法の開発をはじめました。デザインと言う仕事を通して得た実践と経験を活かしながら、アートやデザインがどのように生活に浸透し、人々がそれをどう活かしているか、クリエイティブな人材の育成などを実践的におこなっています。

好きな言葉
「なんでもないことは流行に従う 重大なことは道徳に従う 芸術のことは自分に従う」(小津安二郎)
「全体的に思考して、局所的に行動せよ。最小限を行使しつつ、最大限を達成せよ」(リチャード・バックミンスター・フラー)

COLOMAGA Project 発起人・高橋いづみよりメッセージ

故郷を自慢できる子どもを増やしたい

COLOMAGApjがスタートした伊豆市では、2011年に市内の高校生にとったアンケートで約6割が「将来伊豆市に住みたくない」と答えていました。その背景には、自分たちの暮らす地域の良さを知らず、愛着を持っていないという要因が伺えました。

 ところが、2013年度、コロマガ伊豆市版「KURURA」vol.1の完成発表会で、子どもたちが口々に「今まで近くに住んでいても、こんなにいい所があるなんて知らなかった」「大人がいきいきと働いていた」と伊豆市の良さについて発言をしたのです。「デザインの持つ発信力を子どもたちに伝える」ことを目的にスタートしましたが、取材や体験を通して、自分がくらす地域のことを子どもたちが見つめなおすきっかけになる活動だと気付きました。

 以来毎年度活動を通して「伊豆市にこんないい所があったなんて!」「私達、けっこういい所に住んでると思った」という感想が聞かれ、「この活動を通して将来伊豆市に住みたい・働きたいと思うようになった」という子は8割~9割。リピーターも多く、数年経つと「将来伊豆市の活性化の役に立ちたい」という子も出てきました。

 地方部の魅力である自然の美しさ、水や空気や野菜の美味しさ、歴史や文化のすばらしさを子どもたちが実感することは、海や森やその地域の暮らしを大切にするマインドを育て、持続可能なまちづくりにつながります。COLOMAGAの活動がSDGsの実践活動と言われる所以です。

 この活動に参加した子どもたちは、学校や仕事の都合で、将来的に他の地域に住むことになったとしても、「自分の出身地はなにもない」とは言わないでしょう。「素敵なところがたくさんあるから、案内するよ!」と、観光大使の役割も果たしてくれそうです。全国で「少子高齢化」「若年層の流出」という同様の課題を抱えている地域にもこの活動が広がり、「自分の故郷はこんなに素敵なところ!」と胸を張って言える子どもを増やしていきたい。そんな想いに共感してくれる方々と、この先も活動を続けていきたいと思っています。

 

プロフィール


COLOMAGAプロジェクト本部事務局長 高橋いづみ
COLOMAGAプロジェクト伊豆市版「KURURA」制作実行委員会 事務局/特定非営利活動法人NPOサプライズ 事務局(伊豆市若者交流・移住情報センター9izu担当)/ふじのくにしずおか観光振興アドバイザー